家じまいくん

実家を親族(子・兄弟)に売る・譲るときの注意点——みなし贈与・契約書・特例の落とし穴

実家を子や兄弟など親族へ売る・タダで譲るときは、第三者への売却と税金の扱いが大きく変わります。著しく低い価額で売ると差額が贈与とみなされる「みなし贈与」、タダで譲れば贈与税、さらに空き家3,000万円特別控除は特別関係者への売却では使えません。国税庁No.4423・No.4402・No.3306の一次情報で、適正な時価・売買契約書・登記の重要性を整理しました。

「実家を他人に売るより、子どもや兄弟に譲ったほうが安心」——そう考える方は少なくありません。価格交渉も内見対応もいらず、身内なら話が早い。確かにその通りです。ただし 親族間で実家を売る・譲るときは、第三者への売却とは税金の扱いが大きく変わります。

特に怖いのが「安く売ってあげたつもり」が 想定外の贈与税 を生むケースです。この記事では、実家を子・兄弟など親族へ売却・譲渡するときの注意点を、国税庁の一次情報ベースで整理します。「売る」という選択肢の中身を正しく理解するための 4択(売る・貸す・住む・壊す) の補足記事として読んでください。

親族間で「安く売る」と何が起きるのか——みなし贈与

親族間売買で最初に押さえるべきは「みなし贈与」です。

実家を 時価より著しく低い価額 で親族に売ると、時価と売買価額の差額分について、買った側が「贈与を受けた」とみなされ 贈与税の対象 になります(国税庁No.4423「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」、相続税法第7条)。

例えば時価3,000万円の実家を、子どもに「1,000万円でいいよ」と売ったとします。この場合、差額の2,000万円相当が贈与とみなされ、子ども側に贈与税がかかる可能性があります。「売買契約を結んだから贈与ではない」という理屈は、税務上は通りません。

みなし贈与のイメージ:時価 − 実際の売買価額 = 贈与とみなされる金額

ここで多くの方が知りたくなるのが「いくらまでなら『著しく低い』に当たらないのか」という線引きです。

「著しく低い価額」の線引きは断言できない

結論から言うと、「時価の◯%以下なら著しく低い」という明確な数値基準を、国税庁は公表していません。

国税庁No.4423 も「著しく低い価額の対価」とだけ示し、具体的なパーセンテージは示していません。「時価の80%以上なら安全」「半額以下は危険」といったネット上の目安は、過去の裁判例や実務慣行から導かれた 解釈 であって、国税庁が保証した基準ではありません。

実家の「時価」自体が一物四価(実勢価格・公示価格・路線価・固定資産税評価額)と言われるように一通りに決まらず、不動産は個別性が極めて高い財産です。そのため、

  • どの価格を「時価」と見るか
  • どこからが「著しく低い」と判断されるか

個別の事情によって変わり、一律の正解がありません。親族間で実家を売る価格を決めるときは、必ず税理士に相談して適正な時価を裏付けたうえで決めてください。 「これくらいなら大丈夫だろう」という自己判断は、後から贈与税の追徴という形で跳ね返ってくるリスクがあります。

タダで譲る(贈与)と贈与税がかかる

「売買だと面倒だから、いっそタダで子どもに名義を移そう」というケースも同じく注意が必要です。

実家を 無償で譲れば、それは文字通りの贈与 であり、受け取った側に贈与税がかかります(国税庁No.4402「贈与税がかかる場合」)。贈与税は、暦年課税の場合 1年間に受けた贈与の合計額から基礎控除110万円を差し引いた残り に対して課税される仕組みで、不動産のように評価額の大きい財産では税額が高額になりやすい税です。

「身内だから」「親子だから」という理由で贈与税が免除されることはありません。むしろ親子・兄弟といった関係は、後述する特例の面でも不利に働く場面があります。タダで譲るか、適正価格で売るか、相続まで待つか——どれが有利かは資産状況によって変わるため、これも税理士の試算が前提になります。

空き家の3,000万円特別控除は「親族への売却」では使えない

ここが親族間売買で最も見落とされやすい論点です。

実家を売って譲渡益が出たとき、要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「空き家の3,000万円特別控除」という強力な特例があります。しかし——

この特例は、売った相手が「特別の関係がある人」だと適用できません。

国税庁No.3306 は適用要件のひとつとして「売手と買手が、親子や夫婦など 特別の関係でないこと」を挙げています。この「特別の関係がある人」には、配偶者や直系血族(親・子・孫など)のほか、生計を一にする親族なども含まれます。

つまり、相続した実家を 自分の子どもに売る ような場合、たとえ適正価格で売買契約を結んでも 空き家3,000万円特別控除は使えない ことになります。第三者に売れば3,000万円控除できたかもしれない譲渡益に、満額で譲渡所得税がかかる——これは金額インパクトが非常に大きい差です。

「身内に売ったほうが税金面でも得」と思い込むと、この特例を取りこぼします。親族間売買にするか第三者売却にするかは、3,000万円特別控除の適用可否を含めて比較 してから決めてください。なお、ご自身のケースで控除要件を満たしそうかは 空き家3,000万円控除 適用判定ツール でも確認できます。

親族間でも「登記」と「契約書」は必ず必要

「身内のやり取りだから、口約束でいい」「登記は急がなくていい」——これも危険な発想です。

  • 所有権移転登記は必須: 親族間であっても、売買・贈与で実家の名義を移すなら所有権移転登記が必要です。登記をしないと、対外的に「誰のものか」が確定せず、後の売却や相続の場面でトラブルの火種になります。なお相続で取得した実家は、そもそも相続登記が2024年4月から義務化されている点にも注意してください。
  • 売買契約書は必ず作る: 親族間でも、売買である以上は売買契約書を作成すべきです。契約書は民法上の売買契約(民法)の内容——売買価額・支払方法・引渡し時期・契約不適合責任の扱いなど——を明文化するものです。契約書がないと、税務署に対して「これは適正な売買だ」と説明する裏付けが弱くなり、みなし贈与を疑われやすくなります。
  • 代金は実際に動かす: 契約書だけ作って代金のやり取りがない、あるいは「払ったことにする」状態だと、実質的な贈与とみなされかねません。振込など記録の残る形で代金を授受することが重要です。

身内同士だからこそ、後で「言った・言わない」にならないよう 書面と記録で固める ——これが親族間売買の鉄則です。

仲介業者を入れないリスク

親族間売買では「相手が決まっているのだから不動産会社はいらない」と考えがちです。確かに買主を探す必要がない以上、媒介手数料を払わずに済ませる選択自体は可能です。

ただし、仲介業者を入れないと次のリスクが残ります。

  • 適正価格の根拠が作りにくい: 不動産会社の査定があれば「時価はこのくらい」という第三者の裏付けになります。これがないと、みなし贈与の判断材料が手薄になります
  • 契約条項の抜け漏れ: 契約不適合責任、境界、設備の引継ぎなど、契約書に盛り込むべき条項が抜けやすい
  • 住宅ローンが組みにくい: 買主(親族)が金融機関のローンを使う場合、親族間売買はローン審査が通りにくい傾向があり、宅建業者の関与を求められることがあります

なお、仲介を依頼した場合の媒介報酬の上限は 宅地建物取引業法施行規則 で定められ、売却額400万円超の部分は「売却額 × 3% + 6万円 + 消費税」が上限です。費用はかかりますが、適正価格の根拠づくりと契約書整備のために、親族間売買でも専門家(不動産会社・司法書士・税理士)の関与を検討する価値は十分にあります。

よくある質問

Q. 親に「相場より安くていい」と言われました。安く買って問題ありませんか? A. 時価より著しく低い価額で買うと、差額が贈与とみなされ買った側に贈与税がかかる可能性があります(みなし贈与)。いくらまでなら安全かという明確な数値基準は国税庁も示していないため、価格は税理士に相談して決めてください。

Q. 兄弟から実家の持分をタダでもらうのは贈与ですか? A. はい。無償で不動産(持分含む)を譲り受ければ贈与にあたり、受け取った側に贈与税がかかり得ます(国税庁No.4402)。

Q. 相続した実家を自分の子どもに売れば3,000万円控除が使えますか? A. 使えません。空き家の3,000万円特別控除は、配偶者・直系血族など特別の関係がある人への売却では適用対象外です(国税庁No.3306)。第三者への売却と税額が大きく変わるため、事前の比較が重要です。

Q. 親族間なら契約書なしで名義変更だけしてもいいですか? A. おすすめしません。所有権移転登記は必要ですし、売買なら売買契約書、代金の授受記録も残すべきです。書面がないと、税務上「実態は贈与」と疑われやすくなります。

家じまいくん——「親族に売る」前に手元に残る額を並べて比べる

ここまでが親族間売買の注意点です。実際にどの選択肢が有利かは、立地・築年数・売却見込額・特例の適用可否で大きく変わります。家じまいくんは12問5分で 「売った場合の概算手残り」を、貸す・住む・壊すと並べてレンジ提示 する「最初の地図」です。親族間売買にするか第三者売却にするかを決める前に、まず4択の全体像をつかむ——これが結果的に最大の損失回避になります。

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まとめ

実家を子・兄弟など親族に売る・譲るときの落とし穴は4つです。1つ目は 著しく低い価額で売ると差額が贈与とみなされる「みなし贈与」(国税庁No.4423)。その線引きに明確な数値基準はなく、価格は税理士に裏付けてもらう必要があります。2つ目は タダで譲れば当然に贈与税がかかる こと(国税庁No.4402)。3つ目は 空き家3,000万円特別控除が特別関係者への売却では使えない こと(国税庁No.3306)。4つ目は 親族間でも登記・契約書・代金授受記録は必須 だということ。「身内だから安心・お得」という思い込みが最大のリスクです。動き出す前に、本記事の論点を押さえ、4択を一度横断比較してください。

関連記事: 売る・貸す・住む・壊すの4択判定 / 実家を相続して売る——流れ・期間・費用・税金 / 空き家の3,000万円特別控除 / 兄弟間の遺産分割


本記事は2026年5月時点の制度・標準的な実務に基づきます。「著しく低い価額」の判断や贈与税・譲渡所得税の取り扱いは物件・価格・関係性・適用要件によって変動し、個別性が極めて高い論点です。実際の価格設定・税額・契約手続きは、必ず税理士・司法書士・不動産会社など専門家への確認で確定させてください。本記事は法的・税務的助言を目的としたものではありません。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、 税務・法務・不動産取引に関する個別具体的な助言を行うものではありません。 個別のご事情に応じた判断は、税理士・司法書士・弁護士・宅地建物取引士等の有資格者にご相談ください。 また、法令・通達は本記事公開後に改正される可能性があります。最新情報は各官公庁のWebサイトをご確認ください。

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