家じまいくん

相続放棄の判断基準と落とし穴 — 期限3ヶ月・不動産だけ放棄できない・管理義務はいつまで残る?

相続した実家にローンや負債が残っていて「相続放棄」を検討する方向けに、民法938条・915条の熟慮期間3ヶ月、包括承継主義(不動産だけ放棄不可)、2023年改正の保管義務、単純承認とみなされる7行為、相続放棄 vs 家じまいくん4選択肢の比較を一次情報で整理。葬儀費用・形見分け・生命保険金の扱いも解説します。

「実家を相続したけれど、固定資産税は毎年かかるし、建物は古いし、ひょっとしてローンも残っているかもしれない。いっそ全部放棄したほうがいいんじゃないか」——家じまいくんに来られる方の中には、こうした不安を抱えて相続放棄を選択肢に入れている方が一定数います。

ただ、相続放棄は**「いったん選ぶと撤回できない・3ヶ月という熟慮期間がある・不動産だけ放棄できない」**という3つの強い制約があり、安易に選ぶと「よく調べたら相続したほうが得だった」という事態を招きます。

この記事では、民法915条・938条・939条・940条・921条の一次条文に基づき、相続放棄の判断基準・期限・落とし穴・必要書類・費用を整理します。最後に、家じまいくんが提示する4選択肢(売る・貸す・住む・壊す)と相続放棄の使い分けを解説します。

【3行サマリ】相続放棄の判断軸

  • 期限: 自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述(民法915条)。事情があれば期間伸長の申立も可能
  • 包括承継: 不動産だけ・預金だけといった一部のみの放棄はできない(プラスの財産もマイナスの財産も全部一括で放棄)
  • 管理義務: 2023年4月施行の民法940条改正で、放棄時に現に占有していた財産のみ保管義務を負う形に限定された。ただし占有していた実家がある場合は次の相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで管理を続ける必要がある

それぞれを順に見ていきます。

相続放棄とは — 単純承認・限定承認との違い

相続人は、被相続人の死亡を知ってから3ヶ月以内に3つの選択肢を選ぶ必要があります(民法915条)。

選択肢 効果 手続き
単純承認 プラスもマイナスも全部承継 何もしなくてよい(3ヶ月経過で自動的に単純承認)
限定承認 プラスの範囲内でマイナスを承継 相続人全員で家庭裁判所へ申述・3ヶ月以内
相続放棄 プラスもマイナスも一切承継しない 各相続人が単独で家庭裁判所へ申述・3ヶ月以内

相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったものとして扱われます(民法939条)。代襲相続も発生しません。

期限 — 「3ヶ月」の数え方が落とし穴

起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」

民法915条の3ヶ月(熟慮期間)は、死亡日からではなく、自分が相続人であることを知った時から数えます。たとえば疎遠な兄弟の死を半年後に知った場合は、その**「知った時」から3ヶ月**です。

期間伸長の申立てが可能

「財産が複雑で3ヶ月では調査しきれない」場合、家庭裁判所に期間伸長の申立てができます(裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」)。3ヶ月の期限内に申立てが必要です。

3ヶ月経過後でも認められた事例

判例上、**「相続財産が全くないと信じて、信じるに相当の理由があった」**場合に限り、3ヶ月経過後の相続放棄が認められた事例があります(最判昭和59年4月27日)。ただし例外的扱いなので、原則は3ヶ月以内に判断・申述が必要です。

落とし穴1: 不動産だけ放棄はできない(包括承継主義)

「実家の建物は古くて売れないから不動産だけ放棄したい。でも預金は欲しい」——これはできません。

民法は包括承継主義を取っており、相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も全部一括で放棄するルールです。「不動産だけ」「負債だけ」という部分放棄は認められていません。

「一部だけ放棄したい」場合の代替手段

  • 遺産分割協議で他の相続人に相続させる: 自分は不動産を相続せず、他の相続人が引き受ける。この場合は相続放棄ではなく遺産分割で取得分0にする方法
  • 限定承認: 相続財産の範囲内でだけ債務を弁済する。ただし相続人全員での申述が必要なので、1人でも反対すれば成立しない

判断ポイント: 預金や他の資産が**「実家を引き受けるリスク(解体費・固定資産税・特定空家認定)」を上回る**かどうか。下回るなら相続放棄、上回るなら相続して家じまいくんで4選択肢比較。

落とし穴2: 単純承認と「みなされる」7行為

民法921条は、相続人が一定の行為をすると自動的に単純承認したとみなす(法定単純承認)と定めています。これに該当すると、後から相続放棄を申述しても却下されます。

単純承認とみなされる代表的な行為

行為 単純承認とみなされるか 補足
預金を引き出して自分のために使った 〇 みなされる 葬儀費用への充当は判例上セーフな場合あり
不動産を売却した 〇 みなされる 処分行為に該当
賃貸物件の家賃を受け取った 〇 みなされる 経済的利益の取得
形見分けで時価の高いものを取得した △ ケースによる 経済的価値が小さければセーフ
葬儀費用を支払った △ 原則セーフ 通常範囲内の葬儀費用は判例上単純承認に該当しないことが多い
限定承認・相続放棄後に財産を隠した 〇 みなされる 民法921条3号
相続財産から生活費を出した 〇 みなされる 自己への経済的利益移転

「葬儀費用」の扱いに注意

葬儀費用は通常範囲内であれば単純承認とみなされない判例傾向があります(大阪高裁平成14年7月3日決定など)。ただし**「故人の預金から」**支払うと処分行為と取られるリスクがあるため、自分のお金で立て替えておくのが安全です。

落とし穴3: 形見分けと生命保険金の取扱い

形見分け

形見分けで時計・着物などを受け取る程度は問題ありません。ただし高額な絵画・宝石・骨董品を受け取ると単純承認とみなされる可能性があります。経済的価値の小さいものに限定するのが鉄則です。

生命保険金は「相続財産ではない」

被相続人が契約した生命保険金は、受取人固有の財産として扱われます(国税庁 No.4114)。受取人が指定されていれば、相続放棄をしても生命保険金は受け取れます(ただし相続税法上は「みなし相続財産」として課税対象)。

死亡退職金・遺族年金も受取人固有財産

生命保険金と同様、受取人が指定されている死亡退職金や遺族年金は、相続放棄しても受け取れます。「相続放棄したら何も受け取れない」というのは誤解です。

落とし穴4: 2023年4月施行 — 民法940条改正の保管義務

「相続放棄したのに、空き家の管理義務がずっと残ると聞いた」——これは2023年3月までの旧法の話です。

旧法(〜2023年3月)

放棄者は**「他の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで」自己の財産と同一の注意で管理する義務**を負っていました。次順位の相続人が現れない・全員が放棄した場合、相続財産管理人の選任まで義務が続いたため、実質無期限の負担でした。

新法(2023年4月施行 民法940条改正)

改正後は、**「相続の放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限り、「相続人または相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまで」**保管義務を負う形に変更されました(民法940条)。

実家を占有していた場合の流れ

  1. 自分が実家に住んでいた・鍵を持っていた → 占有あり
  2. 相続放棄の申述
  3. 次順位相続人(兄弟姉妹など)または家庭裁判所選任の相続財産清算人へ実家を引き渡す
  4. 引き渡し完了で保管義務が終了

実家を占有していなかった場合

両親が亡くなった時点で実家に誰も住んでおらず、自分も鍵を持っていない・出入りしていなかった場合は、そもそも保管義務を負いません

全員が相続放棄した場合の費用負担

次順位(兄弟姉妹)まで全員が放棄すると、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります(旧称:相続財産管理人)。予納金として20〜100万円程度を裁判所に納める必要があるため、放棄しても完全に費用ゼロとは限らない点に注意が必要です。

落とし穴5: 相続放棄の連鎖

相続放棄は1人だけでは完結しません。

第1順位(子)が放棄すると第2順位(直系尊属)へ

子全員が放棄すると、**親や祖父母(直系尊属)が相続人になります。親も放棄すると、次は兄弟姉妹(第3順位)**へ。

親族全員に連絡が必要

「自分が放棄しさえすれば終わり」と考えていると、疎遠な兄弟姉妹に通知なく相続人の地位が回り、後から負債通知が届いて訴訟になるケースが起こります。親族全員で同時に放棄を進めるか、放棄したことを連絡しておくのが鉄則です。

落とし穴6: 撤回できない

相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されると、原則として撤回できません(民法919条)。ただし詐欺や強迫による放棄、未成年者が単独でした放棄など、取消事由がある場合のみ取り消し可能です。

「やっぱり相続しておけばよかった」と思っても戻れないので、3ヶ月の熟慮期間中に徹底的に財産調査を行うことが重要です。

落とし穴7: 「3ヶ月」は意外と短い

相続が発生すると、葬儀・初七日・四十九日・遺産整理・諸手続きで2ヶ月はあっという間に過ぎます。気づくと熟慮期間が残り1ヶ月、ということが頻繁にあります。

早めにやるべき調査

  • 預貯金の残高証明(金融機関ごとに取得・1〜2週間)
  • 不動産の固定資産評価額(市町村役場で名寄帳を取得)
  • 負債の調査(信用情報機関3社:CIC / JICC / 全国銀行協会に開示請求)
  • 保証人になっていないかの確認(連帯保証は被相続人の死亡後も契約は残る)

不動産が複雑で評価が3ヶ月で終わらない場合は、期間伸長の申立てで1〜3ヶ月の延長を取ります(裁判所)。

必要書類と費用

必要書類

家庭裁判所への相続放棄申述書と以下の添付書類が必要です(裁判所「相続の放棄の申述」)。

書類 取得先
相続放棄申述書 裁判所HP からダウンロード
被相続人の住民票除票 または 戸籍附票 最後の住所地の市町村
申述人の戸籍謄本 申述人の本籍地の市町村
被相続人の死亡記載のある戸籍(除籍)謄本 被相続人の本籍地の市町村
申述人と被相続人の関係を証明する戸籍 (第2・第3順位申述の場合)

費用

項目 金額
収入印紙 800円(申述人1人あたり)
郵便切手 約500円(裁判所により異なる)
戸籍謄本等取得費 2,000〜5,000円程度
司法書士・弁護士に依頼する場合 3〜10万円(1人あたり)

自分でやれば実費1〜2万円、専門家に依頼しても1人あたり5〜10万円で済みます。家じまいくんで概算した「実家じまい総額」と比較して判断する材料になります。

相続放棄 vs 家じまいくん4選択肢 — 使い分け早見表

家じまいくんは**「相続する」前提で売る・貸す・住む・壊すを比較するツールです。相続放棄を選ぶケースとは判断軸が異なります**。

状況 推奨 理由
負債(住宅ローン残債・連帯保証)が資産を上回る 相続放棄 プラスの財産をもらってもマイナスのほうが大きい
被相続人の事業負債が把握しきれない 限定承認(または期間伸長して相続放棄) 範囲を限定したい
実家に資産価値があり、選択肢を整理したい 家じまいくん4選択肢 売る・貸す・住む・壊すで手残りを比較
3ヶ月以内に財産調査が終わらない 期間伸長申立て 結論を急がない
疎遠な兄弟が亡くなり、財産も負債も不明 相続放棄 連絡もつかない財産を抱えるリスクを避ける

実家に資産価値が少しでもありそうなら、まず家じまいくん(5分・¥9,800)で4選択肢の手残り概算を取り、それを踏まえて相続放棄か相続かを判断するのが合理的です。

FAQ — よくある質問6問

Q1. 相続放棄をすると、被相続人の債権者から訴えられますか?

A. 相続放棄が家庭裁判所で受理されれば、債権者は相続放棄者に請求できなくなります。ただし債権者は次順位の相続人へ請求が回るため、親族全員に放棄の連絡を回すことが重要です。

Q2. 親が住んでいた実家のローン(団信なし)が3000万円残っています。預金は500万円。どうすべき?

A. 負債が資産を大きく上回っているので、相続放棄が合理的です。ただし**団体信用生命保険(団信)**に加入していたかは必ず確認してください。団信加入なら死亡で完済されるため、ローン分が消滅します。

Q3. 父の死後3ヶ月以内に何もしませんでした。もう放棄できませんか?

A. 原則として民法915条により単純承認とみなされます。ただし**「相続財産が全くないと信じ、信じるに相当の理由があった」**場合は、判例上3ヶ月経過後でも放棄が認められる事例があります。すぐに弁護士または司法書士に相談してください。

Q4. 相続放棄したのに、空き家の固定資産税の納付書が届きました。

A. 固定資産税は1月1日時点の登記名義人に課税されます。相続放棄をしても、被相続人名義のまま登記が残っている間は納付書が届くことがありますが、法的には支払い義務はありません。市町村役場に「相続放棄受理証明書」を提出すれば課税対象から外れます。

Q5. 自分が放棄したら、3ヶ月以上前に死亡した祖父の相続も放棄できますか?

A. 第2・第3順位の相続人については、**「自分が相続人になったことを知った時」**から3ヶ月以内に放棄できます。第1順位(子)が全員放棄したことを知ってから数えるので、祖父の死亡から3ヶ月以上経過していても放棄可能です。

Q6. 実家を不動産業者に売却してしまいました。あとから放棄できますか?

A. できません。不動産売却は処分行為にあたり、民法921条1号により法定単純承認とみなされるため、相続放棄は却下されます。

まとめ — 「放棄か相続か」の判断は3ヶ月以内に

相続放棄は強力な制度ですが、期限3ヶ月・包括承継・撤回不可という制約があります。安易に選ぶと「相続したほうが得だった」、安易に放置すると「単純承認とみなされて放棄できなくなった」という両方向の事故が起こります。

この記事で押さえてほしい4点

  1. 期限は**「知った時」から3ヶ月**。間に合わなければ期間伸長の申立てで延長を取る
  2. 不動産だけ放棄はできない。プラスもマイナスも全部一括で放棄
  3. **預金引き出し・不動産売却・形見分け(高額)**は単純承認とみなされる。慎重に動く
  4. 2023年4月改正で保管義務は「占有していた財産」に限定された。実家を占有していた場合は次の引き受け人に渡すまで管理が続く

次のアクション

  • 負債が資産を大きく上回るなら → 相続放棄を3ヶ月以内に申述
  • 実家に資産価値がありそうなら → **家じまいくん(5分・¥9,800)**で4選択肢の手残り概算を取得 → 相続するかどうかの判断材料に
  • 3ヶ月では判断つかないなら → **期間伸長の申立て**で1〜3ヶ月の延長

関連記事:


家じまいくんは、相続した実家を「売る・貸す・住む・壊す」の4選択肢で12問5分で比較し、それぞれの手残り概算と30日アクションプランをPDFでお渡しするツールです(¥9,800・詳細はこちら)。業者に行く前の整理ツールとして、相続直後の判断材料を1つにまとめます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法律助言ではありません。具体的なケースは税理士・司法書士・弁護士にご相談ください。

実家を相続したら、まず「最初の地図」を

売る・貸す・住む・壊すの4選択肢を、12問5分で横断比較。
あなたの実家の場合、どの選択肢が最も合っているのかをデータで提示します。

無料で診断を始める →所要時間 約5分/登録不要/無料

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、 税務・法務・不動産取引に関する個別具体的な助言を行うものではありません。 個別のご事情に応じた判断は、税理士・司法書士・弁護士・宅地建物取引士等の有資格者にご相談ください。 また、法令・通達は本記事公開後に改正される可能性があります。最新情報は各官公庁のWebサイトをご確認ください。

← コラム一覧に戻る