相続した実家に「住む」前に知るべきこと——相続登記・リフォーム費・税金の判断
相続した実家に自分や家族が住む選択肢は、家賃も売却の手間もかからない一方で、住む前提でも相続登記は義務、旧耐震・老朽化のリフォーム費(業界水準で内装一新200〜400万円、フルリノベ500〜1,000万円超)が必要、そして「空き家3000万円特別控除」は売却の特例なので使えません。住み続ければ固定資産税の住宅用地特例(1/6軽減)は続くこと、最大のリスクは「結局誰も住まなくなった時の判断先送り」まで、法務省・国税庁の一次情報で整理しました。
相続した実家に「住む」のは、思い出のある家を手放さず、家賃収入のためのリフォームも売却の手間も要らない——一見すると最もシンプルな選択肢に見えます。ただし 住む前提でも相続登記は義務 で、旧耐震・老朽化の家なら 住むためのリフォーム投資 が必要になります。さらに「住む」を選ぶと、売却したときに使えるはずだった 税の特例が使えなくなる という見落としもあります。
この記事では、相続した実家に住む前に知っておくべきことを「相続登記 → 誰が住むか → リフォーム費 → 税金(固定資産税と3000万円特別控除)→ 最大のリスク」の順に、法務省・国税庁・地方税法の一次情報ベースで整理します。「住む」は 4択(売る・貸す・住む・壊す) のうち、現金は動かないが意思決定を先送りしやすい選択肢です。
住む前提でも相続登記は必須
「自分たちが住むだけだから名義はそのままでいい」と考える方は少なくありませんが、これは誤りです。住む・貸す・売る・壊すのどの選択肢でも、相続登記(名義変更)は避けて通れません。
2024年4月から相続登記は義務化されており、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしないと過料の対象になります(法務省)。「住むだけ」でも登記をしないままだと、将来その家を売る・担保に入れる・次の世代へ引き継ぐ段になって、改めて相続人全員の協力が必要になり、手続きが一気に重くなります。
登記をしておかないと、リフォーム工事の契約や、住宅ローン・リフォームローンの利用でも支障が出ることがあります。住むと決めたら、まず相続登記を済ませる——これが出発点です。
「誰が住むか」で前提が変わる——自分・子・親
ひとくちに「住む」と言っても、住む人によって判断の前提が変わります。
| 住むケース | 主な論点 |
|---|---|
| 自分(相続人本人)が住む | 持ち家を手放して移り住むか、二拠点になるか。通勤・生活圏の見直し |
| 子が住む | 名義をどう置くか(相続人名義のまま貸す形か、子へ譲るか)。将来の贈与・相続が論点 |
| 親(残された親)が住み続ける | 同居・近居の支援体制。いずれ親が住まなくなった後の出口を先に話しておく |
特に注意したいのが 「子が住む」「親が住む」ケースで名義と居住者がずれる 場合です。名義は相続人、住むのは子——という形は珍しくありませんが、そのままにすると将来の贈与税・相続税や、売却時の特例適用で論点が生じます。誰がどれくらいの期間住むのかによって、名義の置き方は税理士に相談して決めるのが安全です。
兄弟で共有名義のまま誰か一人が住むと、後のトラブルになりやすいため、住むと決めた段階で 遺産分割 の方針を揃えておいてください。
旧耐震・老朽化のリフォーム費
相続する実家は築年数が経っていることが多く、そのまま住める状態とは限りません。特に1981年(昭和56年)以前の建築確認による「旧耐震基準」の家は、現行の耐震基準を満たしていない可能性があり、耐震診断・耐震改修が論点になります。
築古の実家に住むために必要になりやすいリフォームの目安は次の通りです。
| リフォーム範囲 | 目安費用(業界水準) |
|---|---|
| 内装一新・水回り総交換 | 200〜400万円 |
| 耐震補強を含むフルリノベーション | 500〜1,000万円超 |
これらは物件の状態・地域・工事範囲で大きく変動する 業界水準のレンジ であり、実際の金額は必ず複数業者の見積で確認してください。リフォーム費を含めた実家じまい全体の費用感は 実家じまいの費用相場 でも整理しています。
「住む」は現金収入こそ生まれませんが、住める状態にするための初期投資は「貸す」と同様に発生する 点を見落とさないでください。
住み続ければ固定資産税の住宅用地特例が続く
税金の面では、「住む」を選ぶことに明確なメリットがあります。
人が住んでいる住宅の敷地(住宅用地)には 固定資産税の住宅用地特例 が適用されます。地方税法では、住宅用地のうち200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)について、固定資産税の課税標準を価格の 6分の1 に軽減すると定められています(地方税法)。
つまり、実家に住み続けるかぎりこの軽減は継続します。逆に空き家のまま放置し、自治体から「特定空き家」等に指定されて勧告を受けると、この住宅用地特例の対象から外れ、固定資産税の負担が大きく増えることがあります(詳しくは 空き家を放置すると固定資産税が6倍)。
「住む」は、空き家として放置する場合と比べて固定資産税の面では有利 というのは、押さえておきたい事実です。
「住む」と「売る」で税の前提が変わる——3000万円特別控除は使えない
固定資産税では有利な「住む」ですが、売却したときに使える税の特例を手放す という側面もあります。
相続した家を売るときには、一定の要件を満たすと「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」により、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる場合があります(国税庁No.3306)。
この特例の重要な前提は、その家屋が 相続の開始の直前に被相続人の居住用であったこと、そして相続後に 事業・貸付け・居住の用に供されていないこと など複数の要件があることです。つまり、相続人が実家に住んでしまうと、この「空き家」特例の前提から外れ、後で売る段になって控除が使えなくなる可能性があります。
| 住む | 売る(空き家特例の対象になりうる場合) | |
|---|---|---|
| 固定資産税 | 住宅用地特例(1/6軽減)が継続 | 売却すれば固定資産税の負担自体がなくなる |
| 譲渡所得の特例 | 「空き家3000万円特別控除」の前提から外れることがある | 要件を満たせば最高3,000万円控除 |
要件の判定は個別性が高いため、必ず税理士・税務署で確認してください。本記事の要点は、「とりあえず住む」と決める前に、将来売る可能性があるなら税の特例の前提が変わることを知っておく という点です。空き家特例の詳細は 空き家の3000万円特別控除 で整理しています。
最大のリスク——「結局誰も住まなくなった時」の判断先送り
「住む」という選択肢の最大の落とし穴は、お金の問題ではなく 意思決定の先送り です。
売る・貸す・壊すはいずれも「決断して動く」選択肢ですが、「住む」は 何も決めずに現状を続けられてしまう 選択肢でもあります。その結果起きがちなのが次の流れです。
- 「当面は親(または自分・子)が住むから」と、4択の比較をしないまま住み始める
- 数年後、住んでいた人が高齢化・転居・他界などで 誰も住まなくなる
- その時点で改めて売る・貸す・壊すを検討するが、家はさらに老朽化し、相続人も増えて合意形成が難しくなっている
つまり「住む」を選んだつもりが、実態は 「判断を先送りした空き家予備軍」 になっているケースが起こり得ます。
これを避けるには、住むと決める段階で 「住む人が住まなくなったらどうするか」までセットで話しておく ことが重要です。出口(売る・貸す・壊す)を家族で共有しておけば、いざという時に慌てず動けます。
「住む」が向くケース・向かないケース
- 向くケース: 相続人本人や家族の生活圏に実家がある/リフォーム費を投資できる資金余裕がある/住宅用地特例で固定資産税を抑えたい/住まなくなった後の出口まで家族で合意できている
- 向かないケース: 生活圏から離れていて誰も実際には住めない(遠方の実家)/リフォーム費を回収する見通しがない/将来売る可能性が高く、空き家3000万円特別控除を活かしたい
住める人が現実にいない、または将来の売却を見据えるなら、売る や 貸す の方が合理的なことがあります。判断は 4択の横断比較 から始めてください。
よくある質問
Q. 自分たちが住むだけなら相続登記はしなくてもいいですか? A. いいえ。2024年4月から相続登記は義務化されており、住む・住まないにかかわらず3年以内の申請が必要です。登記をしないと将来の売却・担保設定・次世代への承継で手続きが重くなります。
Q. 旧耐震の実家にそのまま住んでも問題ありませんか? A. 1981年以前の旧耐震基準の家は、現行基準を満たしていない可能性があります。住むなら耐震診断を受け、必要に応じて耐震改修を検討してください。費用は物件により大きく変動するため、複数業者の見積で確認します。
Q. 実家に住むと「空き家3000万円特別控除」は使えなくなりますか? A. この特例は売却時の特例で、相続後に居住の用に供していないことなどが要件です。相続人が住むと前提から外れる場合があります。将来売る可能性があるなら、住む前に税理士へ確認してください。
Q. 兄弟共有の実家に一人だけ住めますか? A. 共有のまま一人が住むと、他の共有者との間でトラブルになりやすいため、住むと決める前に 遺産分割 で名義の方針を揃えてください。
家じまいくん——「住む」は本当に一番得な選択肢?
「住む」は現金が動かないぶん安心に見えますが、リフォーム費の負担、空き家3000万円特別控除を手放す可能性、そして「結局住まなくなった時の先送り」というリスクを抱えています。立地・築年数・家族の生活圏によっては、売る や 貸す の方が手残り・負担の面で合理的なこともあります。家じまいくんは12問5分で、売る・貸す・住む・壊すの4択それぞれの概算手残りと負担を同じ画面に並べてレンジ提示 します。「住む」に決める前に、一度4択を横断比較してください。
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まとめ
相続した実家に住む前に押さえるべきは「相続登記の完了(住む前提でも必須)→ 誰が住むかと名義の置き方 → リフォーム費(内装一新200〜400万円・フルリノベ500〜1,000万円超が業界水準)→ 税金(住宅用地特例1/6は継続するが、空き家3000万円特別控除は使えなくなる可能性)→ 住まなくなった後の出口」です。最大の落とし穴は、4択を比較しないまま「とりあえず住む」と決め、住む人がいなくなった時の判断を先送りしてしまう こと。「住めば安心」と入口だけで決めず、売る・貸す・壊すと並べて手残りと負担を比較し、住まなくなった後の出口まで家族で共有してから判断してください。
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本記事は2026年5月時点の制度・標準的な相場感に基づきます。実際のリフォーム費・税額・特例の適用可否は物件・地域・要件によって変動するため、必ず複数業者の見積と税理士への確認で確定させてください。本記事は法的・税務的助言を目的としたものではありません。
実家を相続したら、まず「最初の地図」を
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、 税務・法務・不動産取引に関する個別具体的な助言を行うものではありません。 個別のご事情に応じた判断は、税理士・司法書士・弁護士・宅地建物取引士等の有資格者にご相談ください。 また、法令・通達は本記事公開後に改正される可能性があります。最新情報は各官公庁のWebサイトをご確認ください。
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