相続した実家に住み続けるのは損か得か——「住む」の損得を機会費用で判断する
相続した実家に自分で住むのは損か得か。決め手は「機会費用」です。住むと諦める売却益・家賃収入・空き家3000万円特別控除と、住むことで浮く住宅用地特例(課税標準1/6)・家賃ゼロを天秤にかけ、売る・貸す・壊すと中立に比べて損得を自分で計算する手順を、国税庁・法務省・地方税法の一次情報で整理しました。
「相続した実家に自分で住み続けるのは、結局トクなのか損なのか」——これは 4択(売る・貸す・住む・壊す) の中でも、いちばん判断が難しい問いです。売れば売却益、貸せば家賃という 目に見えるお金 が入る選択肢と違い、「住む」は現金が動きません。だからこそ「家賃も売却の手間もかからないから一番おトク」と入口の印象だけで決めてしまいがちです。
損か得かを正しく判断する決め手は、「機会費用」 という考え方です。機会費用とは、ある選択肢を選んだことで 諦めることになった、別の選択肢の利益 のこと。「住む」は現金こそ出ていきませんが、その裏で 売却益・家賃収入・税の特例 を静かに手放しています。本記事は、この「諦めるもの」と「住むことで浮くもの」を天秤にかけ、住むが損か得かを自分で計算する手順 に絞って解説します。
相続登記が住む前提でも必須であることや、リフォーム費・税金の前提知識そのものは 相続した実家に「住む」前に知るべきこと で整理しています。本記事はその先の 「で、住むのは損か得か」を数字で出す段階 に焦点を当てます。
「損か得か」は3つの軸で決まる
「住む」の損得は、感覚ではなく次の3つの軸を数字に置き換えると見えてきます。
| 軸 | 問い | 中身 |
|---|---|---|
| ① 機会費用 | 住むことで何を諦めている? | 売れば得た売却益/貸せば得た家賃収入/売却時の税の特例 |
| ② 浮くお金 | 住むことで何が浮く? | 固定資産税の住宅用地特例の継続/よそで家を借り直す家賃がゼロ |
| ③ 初期投資 | 住める状態にいくらかかる? | 相続登記・引越し・リフォーム費(内装一新200〜400万円〜) |
この3軸を「住む vs 売る vs 貸す」で同じ表に並べれば、どの選択肢が手元にいちばんお金を残すか が比較できます。順に中身を見ていきます。
軸1:機会費用——「住む」と決めた瞬間に諦めているもの
住むことの最大の見落としは、他の選択肢で得られたはずの利益を手放している ことです。これが機会費用です。具体的には3つあります。
諦めるもの①:売却益
実家を売れば、まとまった売却代金が手に入ります。仲介手数料は 宅建業法に基づく報酬上限 で売却額×3%+6万円+税(売却額3,000万円なら約105万円)が差し引かれますが、それを引いた残りが手元に入ります。住むと決めれば、この 売却代金まるごとを当面は受け取らない ことになります。
諦めるもの②:家賃収入
貸せば毎月の家賃収入が入ります。家賃は不動産所得として確定申告が必要で(国税庁No.1370)、管理委託料(家賃の5〜10%)や固定資産税・修繕費を引いた手残りになりますが、それでも 長期では収入を生む 選択肢です。住むと決めれば、この家賃収入を諦めます。
諦めるもの③:売却時の「空き家3000万円特別控除」
最も見落とされやすいのがこれです。相続した家を売るときには、一定の要件を満たすと「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」により、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる場合があります(国税庁No.3306)。
この特例には、相続後に その家を事業・貸付け・居住の用に供していないこと などの要件があります。つまり相続人が実家に住んでしまうと、この「空き家」特例の前提から外れ、後で売る段になって控除が使えなくなる可能性があります。「住む」は、将来売るときの税の優遇を諦めることにもなり得る ——これは現金には見えない、しかし金額の大きい機会費用です(特例の詳細は 空き家の3000万円特別控除)。
⚠️ この特例は「相続税がかかる家」だけの話ではなく、要件を満たす売却で使えるものですが、適用可否の判定は個別性が高い ため、必ず税理士・税務署で確認してください。本記事は「住むと前提が変わる場合がある」という事実を示すもので、すべての家で必ず使える/使えなくなると断定するものではありません。
軸2:住むことで「浮く」お金
機会費用だけ見ると「住む=損」に見えますが、住むことで 浮くお金 もあります。これを足し戻さないと公平な損得計算になりません。
浮くもの①:固定資産税の住宅用地特例が続く
人が住んでいる住宅の敷地(住宅用地)には、固定資産税の住宅用地特例が適用されます。地方税法では、住宅用地のうち200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)について、固定資産税の課税標準を価格の 6分の1 に軽減すると定められています(地方税法)。
実家に住み続けるかぎりこの軽減は続きます。逆に、もし 建物を壊して更地にすると、この特例が消滅して固定資産税が最大6倍 になります。「住む」は、税負担の面では空き家放置や更地化より有利 という、数少ない明確なメリットです。
浮くもの②:よそで家を借り直す家賃がゼロ
もし実家に住まなければ、自分や家族は別のどこかに住居費を払って住むことになります。実家に住めば、その 家賃(または住宅ローン)相当の支出がまるごと浮く ことになります。とくにUターンや二拠点・親との同居で「いずれにせよ住む場所が要る」ケースでは、この浮く家賃が住む選択の損得を大きく左右します。
損得の天秤を数字で組む手順
軸1(諦めるもの)と軸2(浮くもの)に軸3(初期投資)を加えて、同じ表に並べると損得が見えます。標準ケース(築40年・木造30坪・地方郊外)のイメージで、埋めるべき項目 を示します。
| 項目 | 住む | 売る | 貸す |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 引越し+リフォーム(内装一新200〜400万円/フルリノベ500〜1,000万円超) | 残置物処分+仲介手数料(売却額×3%+6万円) | リフォーム200〜400万円〜 |
| 入ってくるお金 | なし(現金は動かない) | 売却代金(一括) | 家賃収入(毎月・経費控除後) |
| 浮くお金 | 住宅用地特例の継続+よそで払う家賃がゼロ | — | — |
| 諦める税特例 | 空き家3000万円特別控除を使えなくなる場合あり | 要件を満たせば最大3,000万円控除 | (貸付け中は空き家特例の対象外) |
| 継続コスト | 固定資産税(住宅用地特例後)+修繕+保険+光熱費 | 売却後はゼロ | 固定資産税+修繕+管理委託料5〜10% |
計算の考え方はシンプルです。「住む」で浮くお金(住宅用地特例+家賃ゼロ)の合計が、「売る・貸す」で得られたはずの利益(売却益・家賃収入・税特例)を上回るほど、住むは得に近づく ——逆なら損に近づきます。実際の金額は売却見込額・家賃相場・リフォーム見積で大きく変わるため、ここを概算で並べることが損得判断の出発点になります。
「自分で住む」ケース特有の論点
「住む」の損得は、誰がどんな目的で住むか で結論が変わります。とくに「自分で住む(住み続ける)」ケースには固有の論点があります。
- Uターン・移住して住む:いずれにせよ住む場所が必要なので、よそで払う家賃が浮く効果が大きく、損得は「得」に傾きやすい。ただし生活圏が実家に移せるかが前提。
- 二拠点で住む(たまに使う):浮く家賃の効果は薄く、固定資産税・光熱費・管理の負担だけが続きやすい。実態は「別荘的な保有」に近く、損得は「損」に傾きやすい。
- 親(残された親)が住み続ける:当面の住まいとしては合理的でも、親が住まなくなった後の出口(売る・貸す・壊す)を決めていない と、判断を先送りした空き家予備軍になりやすい。
生活圏から離れていて誰も実際には住めないなら、遠方の実家 として売る・貸すを検討した方が合理的なことがあります。
「得」になりやすい条件・「損」になりやすい条件
ここまでの軸を踏まえると、住むの損得は次の条件で大きく分かれます。
- 「得」になりやすい:自分や家族の生活圏に実家がある/いずれにせよ住居費を払う予定で家賃が浮く/リフォーム費を投資できる資金余裕がある/将来も売る予定がなく、空き家特例を使う前提がない
- 「損」になりやすい:生活圏から離れていて実際には住めない/二拠点でたまに使うだけ/将来売る可能性が高く、空き家3000万円特別控除を活かしたい/リフォーム費を生活キャッシュから捻出すると家計が圧迫される
住める人が現実にいない、または将来の売却を見据えるなら、売る や 貸す の方が手残りで有利なことがあります。
「住む」が損か得か——4択を並べて確かめる
「住む」は現金が動かないぶん、損得が見えにくい選択肢です。売る・貸す・壊すと同じ画面に手残りと負担を並べてはじめて、機会費用まで含めた本当の損得が見えてきます。家じまいくんは13問5分で、売る・貸す・住む・壊すの4択それぞれの概算手残りと負担を同じ画面に並べてレンジ提示 します。「住むのが一番おトク」と思う前に、一度4択を横断比較してください。
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よくある質問
Q. 実家に住み続けるのは、結局トクなのですか? A. 一概には言えません。判断の鍵は「機会費用」です。住むことで諦める売却益・家賃収入・空き家3000万円特別控除の合計と、住むことで浮く住宅用地特例・家賃支出ゼロの合計を天秤にかけて判断します。生活圏に実家があり住居費が浮くなら得に、二拠点でたまに使うだけなら損に傾きやすい傾向があります。
Q. 現金が出ていかないなら、住むのが一番おトクではないのですか? A. 現金は動きませんが、売れば得られた売却益・貸せば入った家賃収入を諦めています。これを機会費用と呼びます。目に見える支出だけで判断すると、住むの本当のコストを見落とします。
Q. 住むと「空き家3000万円特別控除」は本当に使えなくなりますか? A. この特例は売却時の特例で、相続後にその家を居住・貸付け・事業の用に供していないことなどが要件です。相続人が住むと前提から外れる場合があります。将来売る可能性があるなら、住む前に税理士へ確認してください。すべての家で必ず使える/使えなくなると断定はできません。
Q. 固定資産税は住み続ければ安いままですか? A. 人が住む住宅用地には住宅用地特例が適用され、小規模住宅用地(200㎡以下)は固定資産税の課税標準が1/6に軽減されます(地方税法)。住み続けるかぎりこの軽減は続きます。逆に更地にすると特例が外れ固定資産税が最大6倍になります。
Q. 二拠点で時々使うだけでも「住む」に入りますか? A. 形式上は住むですが、よそで払う家賃が浮く効果は薄く、固定資産税・光熱費・管理の負担だけが続きやすいため、損得では不利になりがちです。実態に近い前提で4択を比較してください。
まとめ
相続した実家に住み続けるのが損か得かは、現金が動かないぶん見えにくいだけで、機会費用 という物差しを当てれば数字で判断できます。住むことで諦めるのは「売却益・家賃収入・空き家3000万円特別控除」、住むことで浮くのは「住宅用地特例(1/6軽減)の継続・よそで払う家賃ゼロ」。ここにリフォーム費という初期投資を足し引きして、売る・貸すと同じ表に並べれば、どれが手元にお金を残すかが見えます。「現金が出ていかないから一番おトク」という入口の印象で決めず、機会費用まで含めて4択を横断比較してから判断してください。
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本記事は2026年6月時点の制度・標準的な相場感に基づきます。実際の売却見込額・家賃相場・リフォーム費・税額・特例の適用可否は物件・地域・要件によって変動するため、必ず複数業者の見積と税理士への確認で確定させてください。本記事は法的・税務的助言を目的としたものではありません。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、 税務・法務・不動産取引に関する個別具体的な助言を行うものではありません。 個別のご事情に応じた判断は、税理士・司法書士・弁護士・宅地建物取引士等の有資格者にご相談ください。 また、法令・通達は本記事公開後に改正される可能性があります。最新情報は各官公庁のWebサイトをご確認ください。
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