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親が認知症になる前にやるべき相続準備5項目|財産目録・遺言・生前贈与・任意後見・家族信託を法令一次情報で整理 2026年版

親が認知症と診断されると預金引き出し・不動産売却・生前贈与・遺言作成のほぼすべてが事実上停止する。判断能力があるうちに進めておくべき「財産目録・遺言書・生前贈与・任意後見契約・家族信託」の5項目を、民法・任意後見契約に関する法律・信託法・相続税法・国税庁タックスアンサーの一次情報に基づき、進める順序とリスク段階別の使い分けまで整理。

「親が認知症と診断されたら、預金が引き出せなくなるって本当?」「うちの母、最近物忘れがひどい。今のうちに何をしておけばいい?」

結論から書きます。親が認知症と診断され、判断能力がないと医師・金融機関に判定されると、本人名義の預金引き出し・不動産売却・生前贈与・遺言作成のほぼすべてが事実上停止します。家庭裁判所で法定後見が始まると財産管理は後見人と家庭裁判所の監督下に入り、家族の意思だけでは動かしにくくなる。これは制度上、本人を守るための仕組みで、ひっくり返すことはできません。

だからこそ、判断能力があるうちに「次の5項目」を順序で進めておく価値があります。本記事では、民法・任意後見契約に関する法律・信託法・相続税法・国税庁タックスアンサーの一次情報に基づき、5項目の中身と進める順序、リスク段階別の使い分けまで整理します。

【30秒サマリ】認知症前にやる相続準備5項目

詳細に入る前に、まず全体像を整理します。

  • 項目1: 財産目録 — 不動産・預貯金・有価証券・債務の棚卸し(最初の地図)
  • 項目2: 遺言書 — 自筆証書/公正証書/秘密証書から1つ。公正証書遺言が最も安全
  • 項目3: 生前贈与 — 暦年110万円控除(国税庁No.4408)または相続時精算課税2500万円(No.4103
  • 項目4: 任意後見契約任意後見契約に関する法律第3条で公正証書必須。判断能力低下後に監督人選任で発効
  • 項目5: 家族信託(民事信託)信託法。判断能力があるうちに財産管理権を子に移す

進める順序は 1(棚卸し)→ 2(遺言)→ 3-4-5(実行手段) を推奨。3〜5項目は目的(節税・管理・承継)と本人の意向で組み合わせます。

「全部やる」ではなく、「家族の状況に合った3項目程度を選ぶ」が現実解です。

5項目の全体マップ

各項目の目的・根拠条文・所要時間・費用感を一覧で整理します。

# 項目 主な目的 根拠 所要時間 費用目安
1 財産目録 全体像の把握 (任意・実務慣行) 1〜2週間 0円〜
2 遺言書 相続争いの予防・特例適用準備 民法960〜984条 1〜3ヶ月 自筆ほぼ0円 / 公正証書5〜15万円
3 生前贈与 相続財産の圧縮・受贈者の生活支援 相続税法21条等 / 国税庁No.4408・4103・4510・4508 都度 贈与税(控除内なら0円)
4 任意後見契約 判断能力低下後の財産管理 任意後見契約に関する法律 公正証書作成2〜4週間 公証人手数料1.1万円〜+登記
5 家族信託 認知症後も柔軟な財産管理・承継 信託法 専門家関与2〜6ヶ月 30〜100万円程度(業界目安)

順序の考え方:

  • 項目1(財産目録)は全員必須。これがないと項目2〜5の判断ができません
  • 項目2(遺言書)は揉めるリスクが少しでもあれば優先
  • 項目3(生前贈与)は資産規模が相続税基礎控除を超える見込みなら検討
  • 項目4(任意後見)は判断能力低下後の管理を家族でしたい場合
  • 項目5(家族信託)は不動産・自社株など"凍結すると困る財産"を持つ場合

項目1: 財産目録の作成

なぜ必要か

財産目録は遺言書・生前贈与・任意後見・家族信託のすべての前提となる「最初の地図」です。本人と家族が「何があって、どこにあって、いくらか」を把握していないと、相続税の概算もできず、特例の適用判断もできず、認知症後の引き継ぎでも預貯金口座・株式の存在を見落とすことになります。

実家じまい・空き家対策の文脈でも、不動産の棚卸しが起点です。家じまいくんの地域別ページでは、相続不動産が所在する自治体の窓口情報を確認できます。

棚卸し対象(4カテゴリ)

1. 不動産

  • 自宅・実家・投資用不動産・別荘・農地・山林
  • 確認資料: 固定資産税納税通知書、登記事項証明書、名寄帳
  • 把握すべき情報: 所在地、地番・家屋番号、固定資産税評価額、共有者の有無、住宅ローン残高

2. 預貯金

  • 銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行・ネット銀行
  • 確認資料: 通帳、キャッシュカード、銀行アプリ
  • 把握すべき情報: 金融機関名、支店名、口座番号、残高
  • 注意: 認知症が進むと「どこの銀行に口座があるか」を本人が思い出せなくなる。元気なうちに一覧化が重要

3. 有価証券

  • 上場株式、投資信託、債券、自社株(非上場)
  • 確認資料: 証券会社の取引報告書、配当通知、株主総会招集通知
  • 把握すべき情報: 証券会社、銘柄、評価額、配当金振込口座

4. 債務・負債

  • 住宅ローン、自動車ローン、カードローン、連帯保証
  • 確認資料: 返済予定表、契約書、金融機関からの通知
  • 把握すべき情報: 債権者、残高、金利、返済期日、団体信用生命保険の有無

棚卸しの進め方

  1. 本人と一緒に家中の書類を集める(通帳・証券・契約書・納税通知書)
  2. 金融機関ごとに残高をまとめる(Excel またはノート)
  3. 不動産は登記事項証明書を法務局で取得(1通600円・オンラインも可)
  4. 年に1回更新する(残高・評価額・新規購入分の反映)

家族で共有する範囲

財産目録は本人のプライバシーに関わるため、共有範囲は本人の意向で決めます。実務的には「全相続人と共有」「主要相続人1名のみ」「専門家のみに開示」の3パターンがあります。揉めるリスクを最小化したい場合は全相続人共有が無難です。

項目2: 遺言書の作成

3つの方式(民法967条・969条・970条)

遺言書には民法上3つの方式があります(民法960〜984条)。それぞれにメリット・デメリットがあるため、本人の状況に合った方式を選びます。

方式 根拠条文 作成方法 費用 検認 改ざんリスク
自筆証書遺言 民法968条 全文自筆(財産目録部分は印字可) ほぼ0円 必要(法務局保管なら不要) あり
公正証書遺言 民法969条 公証役場で公証人作成 5〜15万円(業界目安) 不要 ほぼなし
秘密証書遺言 民法970条 本人作成→公証役場で封印 1.1万円+α 必要 あり(紛失リスク)

推奨: 公正証書遺言

実務では 公正証書遺言が最も安全です。理由は3つ:

  1. 公証人が法的要件を確認してくれるため、無効になるリスクが低い
  2. 検認手続きが不要(家庭裁判所での開封手続きをスキップできる)
  3. 原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんのリスクがない

公証人手数料は財産額により異なります。一般的な家庭(不動産1件・預金数千万円)で 5〜10万円程度が業界目安です。

自筆証書遺言の法務局保管制度

2020年7月から始まった制度で、自筆証書遺言を法務局に保管できます。保管料は1通3,900円で、家庭裁判所の検認も不要になります。費用を抑えつつ安全性も確保したい場合の選択肢です。

遺言書で書ける主な内容

  • 相続分の指定(民法902条)「長男に2分の1、長女に2分の1」等
  • 遺産分割方法の指定(民法908条)「実家は長男、預金は長女に」等
  • 遺贈(民法964条)法定相続人以外への財産承継
  • 遺言執行者の指定(民法1006条)手続きを進める担当者
  • 付言事項(法的拘束力なし)家族へのメッセージ

認知症と遺言能力

遺言を作成するには 遺言能力(民法963条)が必要です。これは「遺言の内容を理解し、その結果を判断できる能力」を指します。認知症の診断を受けていても、軽度であれば遺言能力が認められる場合があります。判断が微妙な場合は、医師の診断書と公証人立会いを組み合わせることで後日の無効主張リスクを下げる運用が一般的です。

項目3: 生前贈与

生前贈与は、判断能力があるうちにしかできません。認知症が進むと「贈与の意思表示」ができなくなるため、贈与契約が成立しなくなります。

暦年贈与(暦年課税)

最も基本的な仕組みです(国税庁タックスアンサーNo.4408)。

  • 年間110万円まで贈与税の基礎控除内(受贈者1人あたり・1月1日〜12月31日)
  • 110万円を超えた部分に対し、累進税率(10〜55%)で贈与税が課される
  • 2024年1月以降、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算(旧3年から延長)
  • 加算は相続人への贈与のみが対象。孫・兄弟への贈与は加算対象外

相続時精算課税(国税庁No.4103

60歳以上の親から18歳以上の子・孫への贈与で選択可能な制度です。

  • 累計2,500万円まで贈与税が非課税
  • 2,500万円超は一律20%の贈与税
  • 贈与財産は相続発生時に相続財産へ加算される
  • 2024年改正で年110万円の基礎控除が新設(基礎控除内は相続財産加算なし)
  • 選択後は暦年贈与に戻せない

教育資金一括贈与の非課税(国税庁No.4510

直系尊属(祖父母・親)から30歳未満の子・孫への教育資金贈与で、最大1,500万円まで贈与税が非課税となる制度です(うち学校等以外への支払いは500万円まで)。金融機関で専用口座を開設して管理します。令和8年(2026年)3月31日までの措置です。

住宅取得等資金の非課税(国税庁No.4508

直系尊属から18歳以上の子・孫へ、住宅取得等資金として贈与した金額のうち、省エネ等住宅で1,000万円、一般住宅で500万円まで贈与税が非課税となる制度です。令和8年(2026年)12月31日までの措置です。

暦年 vs 相続時精算課税の使い分け(2024年改正後の新整理)

観点 暦年贈与 相続時精算課税
基礎控除 年110万円 年110万円(2024年新設)
大口非課税枠 なし 累計2,500万円
相続財産への加算 7年以内分を加算 基礎控除超部分を加算(基礎控除内は加算なし)
適用対象者 制限なし 60歳以上の親→18歳以上の子・孫
制度変更 戻れる 戻れない

長生き前提で小口を継続するなら暦年贈与、短期間で大口を移したいまたは毎年110万円を確実に動かしたいなら相続時精算課税が有利になるケースが増えました。具体的な節税額の試算は相続税の概算と組み合わせて判断するため、税理士相談を推奨します。家じまいくんの相続税概算計算ツールで全体規模を把握してから判断するのが現実的です。

名義預金リスク

「子の口座に親が振り込んでいるが、通帳・印鑑は親が管理」というケースは 名義預金と扱われ、相続税調査で相続財産に組み戻される事故が頻発します。回避策:

  • 受贈者本人が口座を管理し、通帳・印鑑・キャッシュカードを所持
  • 贈与契約書を作成する(双方の署名・押印・日付)
  • 受贈者の生活費等に実際に使う

項目4: 任意後見契約

制度の骨格(任意後見契約に関する法律

任意後見契約は、判断能力があるうちに「将来、判断能力が低下したら、この人に財産管理を任せる」と契約しておく制度です。法務省「成年後見制度Q&A」も併せて参照してください。

主要要件:

  • 公正証書での契約必須(同法3条)。私文書では無効
  • 任意後見人になる人(任意後見受任者)を本人が自由に選べる
  • 委任する事務の範囲を契約で具体的に定められる
  • 判断能力低下後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて発効(同法2条1号)

法定後見との違い

観点 任意後見 法定後見
開始タイミング 判断能力ある時に契約 判断能力低下後に申立
後見人を誰にするか 本人が選ぶ 家庭裁判所が選任
委任事務の範囲 契約で自由に設計 民法で固定
監督 任意後見監督人(家裁選任) 家庭裁判所
報酬 契約で定める 家庭裁判所が決定
取消権 なし あり(成年後見人)

法定後見は本人が選べないことが家族にとって最大の論点です。家庭裁判所が弁護士・司法書士などの専門職を後見人に選任することが多く、月額2〜6万円程度の報酬が継続発生します。家族が後見人として認められるケースは限定的です(業界目安・実情)。

任意後見にしておけば、家族・信頼できる知人・専門家のいずれかを本人の意思で指名できます。

任意後見契約の3類型

  1. 将来型 — 判断能力が低下したら発効。最も一般的
  2. 移行型 — 判断能力があるうちは「財産管理委任契約」、低下後に任意後見へ移行
  3. 即効型 — 軽度認知症等で契約直後に任意後見開始の申立

発効の流れ

  1. 本人と任意後見受任者が公証役場で契約(公正証書作成)
  2. 法務局で任意後見契約の登記
  3. 判断能力が低下した後、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者のいずれかが家庭裁判所に任意後見監督人選任を申立
  4. 家庭裁判所が監督人を選任 → 任意後見開始(同法2条1号)

費用感(業界目安)

  • 公証人手数料: 1.1万円〜(基本手数料・財産額に応じて加算)
  • 公正証書作成費: 数千円
  • 任意後見契約の登記嘱託料: 1,400円
  • 専門家関与(行政書士・司法書士・弁護士): 5〜20万円程度
  • 任意後見監督人選任申立: 申立費用 約1万円
  • 任意後見監督人の報酬: 月額1〜3万円程度(家庭裁判所決定)

項目5: 家族信託(民事信託)

制度の骨格(信託法

家族信託は、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・運用・処分権限を託す仕組みです。利益は本人や指定した人(受益者)が受け取ります。

3つの登場人物:

  • 委託者 — 財産を託す本人(多くの場合、親)
  • 受託者 — 財産を管理する人(多くの場合、子)
  • 受益者 — 財産から利益を受ける人(多くの場合、本人=親)

委託者と受益者を同一人(本人=親)にすれば、贈与税は発生しません。受益者が委託者と異なる場合は贈与税の対象になる点に注意が必要です。

任意後見との違い

観点 家族信託 任意後見
主な目的 財産管理+積極的な運用・承継設計 財産保全(本人の利益のためのみ)
開始タイミング 契約締結時から(認知症前から) 判断能力低下後
不動産売却 信託契約に明記すれば可 家庭裁判所の許可必要
受益者連続型 設計可(2次・3次相続まで指定) 不可
監督 信託契約で設計(任意) 任意後見監督人(必須)
費用 30〜100万円(業界目安・初期) 公正証書1.1万円〜+月額報酬

家族信託の最大の強みは、判断能力低下後も家族の判断で不動産売却・運用ができる点です。任意後見は「本人の利益のため」が厳格に問われるため、積極的な運用や売却は家庭裁判所の許可が必要となり、スピード感が出にくいケースがあります。

受益者連続型

家族信託では、**1次受益者(親)→ 2次受益者(配偶者)→ 3次受益者(子)**のように受益者を連続指定できます。「自分の死後は配偶者が受益、配偶者の死後は子に承継」といった2世代先までの承継設計が可能です。遺言ではここまで設計できません(信託法91条で30年の上限あり)。

税務上の留意点

  • 委託者=受益者の場合、贈与税なし(自益信託)
  • 委託者≠受益者の場合、受益者に贈与税課税
  • 受益権の相続発生時は相続税の対象(相続税法9条の2)
  • 信託財産から発生する所得は受益者に帰属

具体的な節税効果や設計の妥当性は、信託に詳しい税理士・司法書士・弁護士への相談が必須です。

不向きなケース

  • 受託者となる子がいない、または信頼できる家族がいない
  • 財産が現預金のみで、不動産・自社株のような「凍結すると困る財産」がない
  • 委託者の判断能力がすでに低下している(契約締結時に必要)
  • 受託者と他の相続人で揉める可能性が高い

5項目の使い分けマトリクス(リスク段階別)

「全部やる」ではなく、認知症リスクの段階と家族の状況に応じて組み合わせを選びます。

段階 状況 優先項目 補足
段階0 親元気・60代前半 1(財産目録) 棚卸しから着手
段階1 親元気・60代後半〜70代 1+2+3 遺言+暦年贈与開始
段階2 軽度物忘れ・要注意 1+2+4 任意後見の契約締結を急ぐ
段階3 物忘れ進行・MCI(軽度認知障害) 1+2+4+5 家族信託も検討。医師診断書
段階4 認知症診断・軽度 残時間で可能なもの 遺言能力・契約能力の確認
段階5 認知症診断・中等度以上 法定後見へ移行 任意後見・家族信託は契約不可

ポイント:

  • 段階2〜3で動くと選択肢が最も広い。段階4以降は契約能力の問題で選べる手段が減る
  • 段階1〜2で財産目録・遺言・暦年贈与を進め、段階2〜3で任意後見と家族信託を検討が現実解
  • 段階5に入ると、家族の意思では何も動かせず、法定後見申立の一択になる

判断材料が増えたら、家じまいくんの4選択肢 手残り簡易比較ツールで実家の取り扱い方針も並行検討できます。

5項目を進める標準フロー(家族の話し合い起点)

ステップ1: 家族会議で全体方針

親の意向を最優先にしつつ、相続人になる家族全員で「どこまでやるか」を議論します。親が嫌がる話を強引に進めると関係が壊れます。

ステップ2: 財産目録の作成(1〜2週間)

本人と一緒に書類を集めて棚卸し。これがないと項目2〜5の判断ができません。

ステップ3: 相続税の概算(1日〜1週間)

基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えるかどうかで、生前贈与の必要性が変わります。家じまいくんの相続税概算計算ツールで目安が掴めます。

ステップ4: 遺言書の作成(1〜3ヶ月)

揉めるリスクが少しでもあれば最優先。公正証書遺言は公証役場で。

ステップ5: 生前贈与の開始(毎年)

暦年贈与なら年110万円以内、相続時精算課税なら累計2,500万円までで設計。受贈者ごとに契約書を作成。

ステップ6: 任意後見契約 / 家族信託の判断(2〜6ヶ月)

不動産・自社株を持っているなら家族信託を、財産管理の柔軟性を残しつつ守りを固めたいなら任意後見を検討。

ステップ7: 年1回の見直し

財産目録の更新、遺言書の見直し、贈与計画の調整。家族環境(結婚・出産・離婚)の変化で内容を更新。

よくある失敗パターン

失敗1: 「うちは大丈夫」で着手が遅れる

最も多いパターンです。「親はまだ元気だから」と着手を先延ばしにし、軽度認知症の診断が出てから慌てて準備しようとすると、契約能力・遺言能力の問題で選択肢が減ります。

失敗2: 子だけで決めて親が同意していない

財産は親本人のものです。子だけで方針を固めて親に署名させようとすると、後日「強要された」として無効化されるリスクがあります。

失敗3: 公正証書ではなく自筆で進めて方式不備で無効

自筆証書遺言は要件が厳格です(民法968条・日付/氏名/全文自筆/押印)。1つでも欠けると無効になります。公正証書遺言なら公証人が要件を確認するため、この種の失敗は防げます。

失敗4: 暦年贈与の「定期贈与」認定

「毎年100万円を10年間贈与する」と最初から合意していると、初年度に「総額1,000万円の贈与を受ける権利」が贈与されたとみなされ、初年度に1,000万円分の贈与税が課されるリスクがあります(定期贈与認定)。回避には、毎年別個の贈与契約書を作成し、金額・タイミングをずらすのが実務です。

失敗5: 家族信託の設計を非専門家で進める

家族信託は信託法・税法・登記実務にまたがる高度な領域です。インターネット情報や非専門家の助言で進めると、税務・登記で重大な不備が出ます。家族信託に実績のある司法書士・税理士・弁護士への依頼が必須です。

認知症診断後にもできること(諦める前に)

軽度の認知症や MCI(軽度認知障害)の段階では、医師が「契約能力・遺言能力あり」と判定すれば、まだ選択肢が残ります。

  • 遺言書の作成: 公証人立会いで遺言能力を確認しながら作成可能
  • 任意後見契約: 即効型で契約締結直後に発効申立が可能
  • 家族信託: 信託契約の意思能力があれば可能

ただし、判定はケースバイケースで、後日無効主張のリスクも残ります。診断後の準備は 専門家関与必須です。

中等度以上の認知症と診断されると、家族の意思では財産管理ができなくなり、家庭裁判所への法定後見申立が唯一の選択肢になります。法定後見では家庭裁判所が後見人を選任するため、家族が後見人になれるとは限らず、専門職後見人(弁護士・司法書士)の月額報酬が継続発生します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 親が認知症になったら、本当に預金が引き出せなくなりますか?

金融機関が本人の判断能力低下を把握すると、本人の口座が凍結されます。家族でも引き出しが原則できなくなり、引き出しには家庭裁判所の成年後見人選任が必要となります。生活費・医療費の急な支払いに困るケースが頻発します。

Q2. 財産目録は誰に見せるべきですか?

本人のプライバシーに関わるため、本人の意向で決めます。実務的には「全相続人と共有」が揉めるリスクが最も低い選択です。「主要相続人1名のみ」「専門家のみに開示」も選択可能です。

Q3. 自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべき?

公正証書遺言が最も安全です。公証人が法的要件を確認するため無効リスクが低く、検認手続きも不要。費用は5〜10万円程度(業界目安)ですが、相続争いの予防効果を考えれば現実的な投資です。費用を抑えたい場合は、自筆証書遺言の法務局保管制度(1通3,900円・検認不要)も選択肢となります。

Q4. 暦年贈与と相続時精算課税、どちらが有利ですか?

2024年改正で相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が新設され、判断が複雑になりました。長生き前提で小口継続なら暦年贈与、短期間で大口を移したいまたは毎年110万円を確実に動かしたいなら相続時精算課税が有利になるケースが増えました。具体的な節税額試算は税理士相談を推奨します。

Q5. 名義預金とみなされないためには?

受贈者本人が口座を管理(通帳・印鑑・キャッシュカード所持)、贈与契約書を双方の署名・押印・日付で作成、受贈者の生活費等に実際に使う、の3点が基本です。

Q6. 任意後見と法定後見の最大の違いは?

後見人を本人が選べるかどうかです。任意後見は本人が判断能力あるうちに「この人にお願いする」と契約で指名できます。法定後見は家庭裁判所が選任し、専門職(弁護士・司法書士)が選ばれるケースが多く、家族が後見人になれるとは限りません。

Q7. 任意後見契約の費用はいくら?

公証人手数料1.1万円〜(財産額により加算)、登記嘱託料1,400円、専門家関与5〜20万円程度(業界目安)、任意後見監督人の報酬月額1〜3万円程度(家庭裁判所決定)です。初期費用と継続費用の両方を見込む必要があります。

Q8. 家族信託は誰でも使えますか?

不動産・自社株など「凍結すると困る財産」を持つ方が主な対象です。財産が現預金のみの場合は、任意後見でほぼカバーできるため家族信託の必要性は低くなります。また受託者となる信頼できる家族がいることが前提です。

Q9. 家族信託の費用はいくら?

業界目安として初期費用30〜100万円程度です。司法書士・弁護士・税理士の設計報酬、信託契約公正証書化、信託登記費用などが含まれます。財産の構成・規模・設計の複雑さで変動します。

Q10. 認知症と診断されてから何ができますか?

軽度・MCI段階では、医師が契約能力・遺言能力ありと判定すれば、遺言書作成・任意後見契約(即効型)・家族信託は可能なケースがあります。中等度以上では家族の意思では動かせず、法定後見申立が唯一の選択肢になります。診断後の準備は専門家関与必須です。

Q11. 5項目すべてを進める必要がありますか?

不要です。家族の状況に合った3項目程度を選ぶが現実解です。財産目録(項目1)は全員必須として、遺言書(項目2)・生前贈与(項目3)はほぼ必須、任意後見(項目4)・家族信託(項目5)は財産構成と家族構成で選択します。

Q12. 遺言書は何年ごとに見直すべきですか?

家族環境の変化(結婚・出産・離婚・死亡)や財産構成の大きな変化があった時に都度見直すのが基本です。少なくとも年1回は内容を確認することが推奨されます。新しい遺言書を作成すれば古い遺言書は撤回されます(民法1023条)。

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最後に

親の認知症は、いつ・どの程度の速さで進むか予測できません。だからこそ「元気なうちに、最初の地図を描いておく」ことが家族の負担を最小化する唯一の方法です。

5項目すべてを完璧に揃える必要はありません。項目1(財産目録)と項目2(遺言書)から始めて、家族の状況に応じて項目3〜5を組み合わせる ことが現実解です。

家族での意思決定の第一歩として、家じまいくんの無料診断(12問・約3分)で実家の4選択肢の手残りを把握し、相続税の概算と合わせて全体像を掴むことも推奨します。判断材料が揃えば、専門家相談の精度も上がります。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、 税務・法務・不動産取引に関する個別具体的な助言を行うものではありません。 個別のご事情に応じた判断は、税理士・司法書士・弁護士・宅地建物取引士等の有資格者にご相談ください。 また、法令・通達は本記事公開後に改正される可能性があります。最新情報は各官公庁のWebサイトをご確認ください。

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